「外濠」から都心の水辺再生を考えるシンポジウムを開催!「水の都」東京の将来像を語る

江戸城を守る役割で開削され、現在は水質悪化などの問題を抱えつつも観光や歴史的遺産としての可能性に注目が集まる「外濠」。2036年には開削400周年の節目を迎えます。外濠水辺再生協議会では「外濠EXPO2025」の一環として、産官学の関係者を招き「外濠」の未来を考える「外濠開削400年へ向けて! 外濠EXPOシンポジウム」を11月11日に開催しました。その様子をお届けします。

「お濠をきれいにしていきたい」が端緒

外濠周辺の企業や有志が水質浄化と景観改善を目的として2016年に設立した「外濠水辺再生協議会」は今回のシンポジウムで活動に一区切りを迎えます。開会にあたり、同協議会の齊藤朝秀会長(西武不動産プロパティマネジメント代表取締役社長)より、東京都の宮坂学副知事がヤフー(現・LINEヤフー)の社長を務めていた2016年に、当時の西武プロパティーズの安藤博雄社長との会食で「お濠をきれいにしていきたい」と話したのが発端だったことを振り返り、「外濠をこれからも大事にしていきたい」と挨拶して参加者の大きな拍手を浴びました。

宮坂学東京都副知事からビデオメッセージ
外濠を生かし、自然と便利が融合した街・東京を

東京都 宮坂学副知事のビデオメッセージに聞き入る参加者の皆さん

 (宮坂副知事)かつてヤフーが紀尾井町に移転した際、残念ながら外濠の水は悲しいぐらいあまり綺麗ではなかったのに、地元の人は昔、外濠で泳いでいたと聞き、再び泳げるぐらい綺麗にしたいという思いが湧き上がりました。現在、外濠浄化については別の副知事が担当していますが、私と都庁の最初の接点は外濠であり、協議会の皆さまから熱烈なオファーをいただき、今回メッセージを寄せることとなりました。
東京都は2022年に「外濠浄化に向けた基本計画」を発表し、プロジェクトをスタートしています。歴史的財産である外濠の水質改善を進め、都心で働く人々にも癒しの場を提供するとともに、品格のある景観の形成によって地域全体の活性化を図り、水の都東京を蘇らせる取り組みで、都の重要事業として中長期的に取り組んでいくことになっています。
2050年代に「玉川上水や河川等の清流が復活し、外濠では蛍が舞う江戸の昔ながらの風景が再生され、歴史と文化をつなぐ日本橋川を中心にした水の都」を目指します。外濠を生かして、子孫に美しい水と緑に溢れる自然と便利が融合した街・東京を残していきたいと考えています。
 ニューヨークやパリ、シンガポールといった諸外国の成熟した都市は、自然と便利さが融合している点が共通しています。生活が便利になるだけでは人々の心を豊かにするには限界があり、豊かな水と緑が溢れる環境が身近にあることで、生活の質や都市の品格が向上します。

陣内秀信法政大学特任教授からビデオメッセージ
外濠はみんなが集まり、使いこなすコモンズ

ビデオメッセージを寄せた陣内秀信法政大学特任教授

(陣内教授)東京にある外濠は世界の大都市の中でも圧巻の素晴らしい本当に貴重な財産です。歴史だけでなく、緑やエコロジー機能も備えた「歴史エコ回廊」であると強く訴えてきました。外濠は人工物ですが、巧みに東京の凸凹地形や自然条件を組み込んでできた有機的な都市構造でもあります。外濠の上は風が抜け、ヒートアイランド現象を防ぐ意味でも重要です。ところが高度成長期や経済発展に伴い、水辺が無視されてきた時代が続いてきました。
地元住民も含めて外濠を研究してきた成果を、2012年に「外濠 江戸東京の水回廊」という本にまとめたところ、それを読んだ大日本印刷の方が、大学と一緒に「外濠を使った社会貢献をしたい」と提案してくれました。「企業市民」という言葉を作り、東京理科大工学部の宇野求教授らも一緒になって外濠の見学会やワークショップなどを開催。大学に隣接する三輪田学園とも連携が進み、学園の女子生徒は外濠の斜面に生える雑草をヤギに食べてもらうという画期的なアイデアを出すなど、楽しみながら活動を続けてきました。
外濠は公共空間であり、みんなが集まり、使いこなす「コモンズ」です。外濠開削400周年に向け産官学がそれぞれに関心を持っていますが、現状は立ち入りが禁止された「窮屈な外濠」です。常識を打ち破って新たな時代のルールを作り、活用していくことが必要です。

外濠水辺再生協議会運営委員会 中西隆夫副委員長
「歴史や文化を感じられる空間を作り上げることが必要」

外濠水辺再生協議会の活動について説明する中西隆夫運営委員会副委員長

発足時から外濠水辺再生協議会に携わってきました。宮坂副知事らは発足当時、2020年に予定されていた東京五輪までに「泳げるような水にしたい。最後は泳げるだけじゃなく飲めるような水にしたい」などと話し合っていました。
実際に東京五輪が開催された2021年までに水質改善は追いつきませんでしたが、活動を続けていく中で、東京都の理解も深まり、様々な政策が打ち出されるようになりました。
外濠は、利便性の高い都市空間であり、多様な生物が生息する自然空間でもあります。また、江戸城を中心とした歴史や文化を感じられる場所でもあります。こうしたさまざまな魅力を活かし、より良い空間としていくことが求められています。

協議会では幹事企業・一般企業という形で数々の著名な企業が参画し、10年近く企業集団として活動を続けた結果、それなりのことができたかなと思っております。協議会としての活動は今回で一区切りですが、技術分野などで活動を続けてきたメンバーは、引き続きこの外濠に関わっていきたいと思っています。

外濠水辺再生協議会技術分科会 安井利彰会長
「水質改善には水の循環や水草の力を借りる方法も組み合わせて」

協議会の3つの分科会の活動を解説する技術分科会の安井利彰会長

外濠水辺再生協議会には3つの分科会があります。企画広報分科会は、今回や2017年開催のシンポジウムの企画やその広報活動を担ってきました。公園分科会は、外濠全体を魅力的な公園とするための計画を検討しました。景観の向上や水質の改善だけでなく、維持費用の確保にも取り組むため、外濠周辺に遊歩道を整備することを検討してきました。また、飯田橋の見附石垣をシンボルとした施設の入場料や記念品販売、江戸時代風の建築物を模したショッピングストリートの設置、さらに四ツ谷駅近くの外濠公園周辺エリアでの商業施設の展開など、さまざまな収益事業についても検討しました。

水質改善のシミュレーションを詳しく解説

技術分科会では、外濠の水質を改善するための方法について検討を重ねてきました。かつて外濠は都市の水循環の一部として機能していましたが、都市開発の進展により外濠への水の供給が途絶えました。また、都市の近代化に伴い「合流式下水道」が整備されることで、晴天時には汚水は下水処理場に送られていますが、雨天時に大量の雨水が下水道に流れ込んだ場合は下水と雨水が混ざった水が一時的に外濠に放流されるようになりました。こうした水の循環の停滞や汚水の流入により、アオコの発生や景観の悪化、悪臭などの問題が生じています。
このため、東京都では降雨時に汚水が外濠へ流出するのを防ぐための貯留管の整備や、浄化用導水路の設置による外濠への水の導入計画を進めています。協議会でも、導水の必要性を東京都に提言し、導水する水の量や水質による水質改善効果のシミュレーションを行っています。また、弁慶濠に自生する「ホザキノフサモ」という水草を活用した水生植物浄化法による水質や景観の改善効果についても検証しています。
外濠の水質改善により、外濠のレガシーとしての保全のみならず、生態系保全のプラットフォームや経済活性の後押しとなる存在となることを願っています。

法政大学デザイン工学部教授 福井恒明氏と大学院修士課程 一柳怜美氏「外濠市民塾や再生懇談会で『外濠vision2036』をまとめました」

外濠市民塾の活動を振り返る外濠市民塾・法政大学教授の福井恒明氏

(外濠市民塾・法政大学教授 福井恒明氏)2012年に法政大学に着任し、陣内教授から、出版したばかりの「外濠 江戸東京の水回廊」を「社会に還元する方法を考えてくれないか」と言われ、地域貢献などを検討していた大日本印刷とともに「外濠市民塾」として活動することになりました。地域の人に活動を広めるにあたり、最初は2013年の花見から始めました。

「外濠市民塾」のワークショップで作成した「外濠四季絵巻」を開いて説明を聞く参加者の皆さん

法政大学・東京理科大学・中央大学の総長・学長連名により、外濠、日本橋川の水質浄化と玉川上水分水路の保全や再生について「玉川上水、外濠、日本橋川を浄化するために河川水を取り込んでほしい。我々も市民の知見を集約するなどの協働体制確立に協力する」と小池百合子都知事宛に提言もしました。
外濠市民塾と並行し、町会・自治会や商店会、企業など外濠周辺地域の皆さんに呼びかけて活動した外濠再生懇談会では、外濠の価値をどう捉え、生かすためにどう行動するかを明文化した「外濠再生憲章」を宣言。水上から都会を満喫したい、外濠で寒中水泳をしたいといった外濠市民塾のワークショップで出た様々なアイデアを集めた目標像としての「外濠四季絵巻」と合わせて、「外濠ビジョン2036」をまとめました。

外濠市民塾の活動内容について語る法政大学大学院修士課程 一柳怜美氏

(一柳怜美氏)市民塾には法政大のみならず、東京理科大、東京科学大、日本大など幅広い大学の学生が参加。専攻分野も、土木・建築・歴史……と幅広く、互いに知恵を出し合って議論を重ねています。
外濠市民塾参加の学生はまず外濠を歩き、自らの目で感じた魅力や課題を議論。フライヤー製作やルート設計も学生自身が行います。実際に歩いてから議論してまとめることで、より深い学びに繋がるものがあります。

東京都都市整備局都市づくり政策部広域調整課 口裕太課長代理
「水質改善事業に理解を得るための情報発信も行っています」

外濠浄化に向けた具体的な取組みを語る東京都・瀧口裕太課長代理

(瀧口裕太課長代理)外濠は流入水が少なく、水が滞留しやすい閉鎖性水域です。過去の調査で、水温が25度超、窒素やリンといった汚濁物質が豊富な水質状況、濠の水の滞留時間が5日間超の3つの条件が揃うとアオコが大量発生することが分かってきました。
昭島市の「多摩川上流水再生センター」で下水を多少綺麗にした「下水再生水」を現状よりもさらに下流まで水を持っていこうとしているほか、荒川の秋ヶ瀬取水堰から、既存の水道施設を活用し、玉川上水に接続させる導水路のルート選定や施工方法などを関係機関と調整しています。玉川上水下流の暗渠に溜まった土砂の浚渫作業や暗渠の補修を検討しています。
汚濁物質を軽減するため、大雨が降ると汚水も雨水も入る合流式の下水管から河川や濠に流れないよう一時的に貯留する貯留管を設けました。完全に全てを貯留はできませんが、外濠に汚濁物質が流れる量を削減しています。
また暫定的な対策として、令和3年からアオコをくっつけて沈める水質処理改善剤を散布しています。散布から5時間ぐらい経つと澄んで緑色のアオコが見えなくなります。
事業について都民の理解や支援を得るため、情報発信も行っています。令和4年度から千代田区・新宿区の小学校の協力を得て、外濠についてクイズ形式で学ぶ子供向け勉強会を実施。また、現地見学や生き物観察も行っています。子どもらからは「綺麗になった外濠で水遊びしたい」「イベントを開催してほしい」と多くの声が寄せられています。

昨年度に外濠で行われたプロジェクションマッピングの様子が上映されました

より多くの人に関心を持ってもらうため、外濠の景観を生かしたプロジェクションマッピングを昨年度から始めました。昨年5月末のイベントでは4日間で7000人以上が来場。今年度も外濠のほか、都庁舎で「水の都 江戸外濠」と題したコンテンツを上映しています。

パネルディスカッション
「外濠再生を踏まえて首都・東京はどんな都市になるべきか」

さまざまなイメージ図を見ながら、「水の都 東京」の将来像について闊達な意見が交わされたパネルディスカッション

【参加者】
東京都都市整備局まちづくり調整担当部長 新良京子氏
東京スリバチ学会会長 皆川典久氏
外濠市民塾・法政大学教授 福井恒明氏
外濠水辺再生協議会 安井利彰氏
外濠水辺再生協議会 玉置泰紀氏

東京スリバチ学会会長 皆川典久氏 

冒頭、東京スリバチ学会会長の皆川典久氏から東京の凸凹地形を生かした水辺の活用などについてプレゼンが行われ、それを取り掛かりにした熱のあるディスカッションが行われました。

(東京スリバチ学会会長 皆川典久氏)日本橋川のカミソリ護岸を階段状の護岸にして作った船着き場や、もともと外濠があった東京駅八重洲側のKK線(国道)を水辺にした絵などを描いてみました。実現は2050年の話でいいと思います。江戸の遺構や地域資源を活用した都市再興で、東京駅を中心とした舟運ネットワークの構築は防災性向上にも繋がります。どこにも反対する理由はないですよね。

東京都都市整備局まちづくり調整担当部長 新良京子氏

 (東京都 新良京子氏)皆川さんのお話は“べらぼう”な提案ですが、楽しく拝見しました。都市づくり政策部は、民間のアイデアも取り込みつつ、現状の法律や制度に落とし込んだりしながらプロジェクトを前に進める部署です。外濠の水をきれいにし、みんなに親しまれる空間にするための街づくりを考えています。それに近いことを現在、日本橋川で取り組もうとしており、技術的にというより制度的に階段状の護岸はどうやって作るかなどを掘り下げています。皆川さんが示したような絵があれば議論もしやすいですね。

(外濠市民塾・法政大学教授 福井恒明氏)やはり絵などの具体的なイメージはとても大事です。イタリア・ミラノでは埋まってしまった水路を復活させようという機運が高まっていますが、それに比べると東京は慎重です。

それぞれの立場から外濠の意義や未来を語るパネラーの皆さん。ときには笑い声も

(外濠水辺再生協議会 玉置泰紀氏)この秋は東京都が外濠にすごく踏み込んでやっておられますし、日本橋川もやっておられるので、より活発になるんじゃないかという期待感があります。

(外濠水辺再生協議会 安井利彰氏)東京が世界遺産になるにはシンボル性のあるものが必要で、東京でシンボルになるのは外濠を含めた江戸城です。

外濠市民塾・法政大学教授 福井恒明氏

(福井氏)社会へのメッセージをもう少し出したいなと思っています。私としてはもっと若者のアイデアを出してほしい。個人的な構想ですが「外濠2036デザインコンペ」という設計コンペ、アイデアコンペをやって、どんなその姿があるかという議論の場を作れると良いと考えます。外濠は文化財であることと、両側が公園と道路に挟まれていることから制約が多くがんじがらめな状態です。水質改善だけでなく、周辺まで含めてどう構造を展開していくかというところまで考えた施策を行わないと良くならないと思っています。まず外濠通りの車線を減らして歩道を広げ、そこに余裕を持たせた上で水辺に下りられるようにするというのが一番実現できそうな方向ではないかと。

(新良氏)外濠のような水辺や皇居周辺の緑が都市の真ん中にあることを大事にしながら都市作りができるといいですね。

(玉置氏)僕は大阪出身なんですが、緑が少ないんです。ある意味東京は羨ましい。

(皆川氏)水の都を再生させる取り組みが都市計画の中に位置づけられ、都市政策をやっていくと、本当に面白い街になるんじゃないかな。


この度はご参加いただき誠にありがとうございました。

(了)