外濠の魅力を取り戻そう! ~外濠水辺再生協議会の取り組み~
「外濠(そとぼり)」をご存じですか?
電車の車窓から見える水辺の景色、ジョギングしながら見かける風景……。日常的に見かける水辺の景色として、身近なイメージを持つ人も多いかもしれません。
「外濠」とは、かつて江戸城のお濠だったところの外側部分を指します。江戸時代には内濠や東京湾(江戸湾)とつながる水路でもありました。今では、ほとんどの部分が埋め立てられて道路や公園になっています。
その中でかつての水面の姿を残しているのが、飯田橋駅から四ツ谷駅までJR路線に沿うように残っている北側3濠(牛込濠・新見附濠・市ヶ谷濠)と赤坂見附駅に近い弁慶濠の4ヶ所の外濠。広い意味では、飯田橋の東あたりで外濠と合流している神田川も外濠の一部と言えるかもしれません。そして今、この外濠の水質悪化が課題になっています。
外濠水辺再生協議会の誕生
水辺には、オアシスのような癒しのスポットであってほしいもの。ですが現在の外濠は、水質悪化によって水が緑色に濁ったり、悪臭が生じたりしており、外濠本来の魅力を活かしきれていない状態です。
そんな外濠の状況を改善したいと立ち上がったのが、外濠の見えるエリアにオフィスを構える企業の経営者たちでした。「外濠の景観を改善したい」、「訪れる人にとって外濠が魅力的なものであってほしい」という想いから、当時紀尾井町にオフィスを構えたLINEヤフー株式会社(旧: ヤフー株式会社)の宮坂元代表を中心に声をかけあい、2016年5月に外濠水辺再生協議会が発足したのです。
外濠は、江戸城を守る存在であるとともに、江戸時代からずっとこの地の景観を彩ってきた歴史的にも大切な遺産です。その魅力を取り戻すためにはどんな課題があり、外濠水辺再生協議会ではどのような取り組みがされているのでしょうか。
外濠の大きな課題はアオコの発生と悪臭問題
大量に植物プランクトン(藻)が発生し、水面を覆いつくす状態になることを「アオコ」と言います。水面のアオコを放置すると、やがて腐って悪臭を放つようになります。外濠の抱える問題はまさにこれです。水の流れがなく、「ため池状態」になっていることが、その原因だと考えられています。なかでも、下水道が整備されたことにより下水を通った雨水の一部が外濠に排水されるようになったため、その汚い水が外濠内にたまってしまうことの影響が大きいようです。
アオコによって青緑色のペンキを流したような見た目になり悪臭を生じている外濠を、かつてのようなきれいな水質、美しい景観に戻すにはどうすれば良いのでしょうか。
対策1「外からきれいな水を引き入れる」
まず考えられる対策のひとつは、外部からきれいな水を外濠に引き入れること。具体的には、外部の河川から外濠に水を流入させることで、すでに水質が悪化した外濠の水を薄めたり、水の滞留時間を短くして外濠の「ため池化」を防ぐ試みです。
そこで協議会は2019年より法政大学鈴木教授と連携して、コンピュータ上でのシミュレーションを実施。その結果、どの程度の水質でどの程度の量の水を流せば、水の滞留時間を短くでき、どれくらいの水質改善が可能かという結果を得ました。この結果を東京都にも共有しました。都の取り組みとしても、外濠の浄化のために荒川の水や下水再生水などを外濠に引き込む計画を進めています(2030年代に完了予定)。
外濠水辺再生協議会ではこれからも鈴木教授と連携し、シミュレーションモデルの精度向上と検証を進め、東京都への情報提供も引き続き行っていく予定です。
対策2「汚い水の流入を防ぐ」
次に考えられる対策は、本来、下水道管を通って水再生センターへ送られる家庭・企業等からの汚水が豪雨時に大量の雨水とともに外濠へ流入するのを防ぐことです。この対策についても、鈴木教授とともにシミュレーションを実施し、汚水を高濃度で含む雨水ができるだけ流入しないようにするための「外濠保全水路」や、外濠に放流される前に下水を貯められる「地下貯留管」などを活用した場合にどの程度水質が改善されるかを解析しました。その結果、豪雨時の汚水の流入を減らしながら、きれいな水を引き入れ水の滞留時間を短くすることで、水質改善が可能だという結果を得ました。また、それぞれの対策を単独で行うよりも、対策1と対策2を併用することでより良い効果が期待されることもわかりました。
東京都では雨が降り出した際の特に汚水を高濃度で含む雨水を一時貯留し、雨がやんでから水再生センターへ送る取り組みをすでに始めています。
対策3「水草を利用した水質浄化」
これまでにあげた対策だけでなく、今ある濠内の水そのものを浄化して水質を改善していくことも必要です。そこで協議会が注目したのが、「水草の力」でした。
外濠の水質調査を進めた結果、濠のなかでも弁慶濠の水が他の濠に比べて透明度が高く、水質が良好であることがわかりました。弁慶濠には数種の水草が繁茂しており、そのうちのひとつ「ホザキノフサモ」には、アオコの発生抑制になる“アレロパシー効果”があるという研究がありました。アレロパシーとは「ある植物から放出される化学物質が、他の植物や微生物に何らかの影響を及ぼす現象」のことで、化学物質を使わずに害虫駆除や雑草の抑制などが期待できることから、特に農業の現場で活用が進んでいるものです。
弁慶濠に生息する水草であれば、古来つながった水域だった牛込濠、新見附濠、市ヶ谷濠への移植も比較的容易に叶い、水質浄化を進めることができるのではないかと考えて研究を進めています。
協議会では、水草の浄化能力を調べる実験などを継続して行い、今後の移植や管理についても調査・検討して東京都へ提案していく予定です。
外濠の歴史と未来を守るために
長い歴史の中でその姿を変えながらも、東京という街の景観の中でその存在感を示してきた外濠。地域の人々や近くを訪れた人々が外濠に魅力を感じ、憩いの場として集いたくなるような場所であってほしい。また、この豊かな水と開放的な空間を、防災や減災にも活用していきたい。そんな想いで、外濠水辺再生協議会は活動をしていきます。
整備には長い時間がかかることが予想されますが、その間にも歴史的財産である外濠の魅力や、水質改善などの活動報告を発信し、広く広報していく予定です。
協議会の活動をきっかけにして、外濠に興味を持ったり親しみを感じたりする人が増え、外濠の未来を築く新たな一歩につなげることが、協議会の願いでもあります。