水草で水がきれいになる!? 植物の力で「外濠」の水質改善をめざす
江戸の時代から、都の水辺として存在感を示している「外濠」。そのほとんどが埋め立てられ、現在も水面を残すのは、牛込濠、新見附濠、市ヶ谷濠、弁慶濠の4か所です。その4か所も、水の流れがなくなって「ため池化」しており、水質悪化が課題となっています。植物プランクトンが大量発生する「アオコ」で悪臭も発生し、景観にもよくない状況となっています。
そんな状況を改善するために、水質改善への取り組みを行っているのが外濠水辺再生協議会です。協議会独自の調査・実験、大学への研究支援、イベント企画などの活動を行い、その結果を東京都や千代田区などの関係機関と共有し、学会発表などで発信しています。
水質改善のために取り組んでいることのひとつが水草の活用です。今回は、水草の持つ浄化の力についてお話しします。
水草の浄化能力に注目!
水草、なかでもその全体が水中にあって固着している沈水植物は、水をきれいにし、生き物の住みかとして機能することが知られています。そのため、この機能を活用して、湖沼や池などの水質を改善する取り組みが全国的にも実践されています。
外濠で水面を残す4か所(牛込濠、新見附濠、市ヶ谷濠、弁慶濠)の濠の中でも比較的水質の良い弁慶濠には沈水植物がよく育っています。そのなかでもホザキノフサモという水草は、「アオコ」の増殖を抑える効果があることが既存の研究でわかっており、協議会ではこれがカギになるのではないかと考えました。
ホザキノフサモは牛込濠、新見附濠、市ヶ谷濠にも生育できるの?
ホザキノフサモは、キンギョモとも呼ばれる水生多年草の水草で、北海道から九州まで広く分布している日本の在来種です。弁慶濠にはたくさん生育しているホザキノフサモですが、北側3濠と呼ばれる牛込濠、新見附濠、市ヶ谷濠では近年確認されていません。しかし、外濠公園付近で以前行われた古い時代の地層の土壌調査では、かつてフサモ属が生育していたことが確認されており、江戸時代には北側3濠にもホザキノフサモが生育していた可能性が高いと言えます。このような理由から、北側3濠にもホザキノフサモが生育することは可能であると推察されます。となれば、北側3濠にもホザキノフサモを育成して水質浄化していけばいいのですが、外濠でのホザキノフサモによる水質浄化についての実際の報告事例は今のところ見当たりませんでした。そこで協議会は、ホザキノフサモがアオコをどの程度抑制するのかを調べるための実験をすることにしたのです。
ホザキノフサモで水質浄化実験
実施した実験は以下のようなものでした。 市ヶ谷濠から採取したアオコの種を、弁慶濠から採取した水草であるホザキノフサモと一緒に入れる水槽と入れない水槽、さらにホザキノフサモの量を変えて入れた水槽、とあわせて4条件の水槽を用意して観察しました。もし実験に何か不具合があったときに困るので、同じ条件を3パターンずつ用意し、合計12個の水槽を使って実験をしました。期間は60日間です。その結果、水草がない水槽ではアオコが発生しましたが、ホザキノフサモが入った水槽ではアオコが発生しませんでした。また、ホザキノフサモがない水槽ではリンなど、水質を悪くしてしまう物質が増加しましたが、ホザキノフサモのある水槽は比較的低い濃度でした。リンはアオコの栄養源になるものなので、この濃度が低いことはアオコの発生を抑制することにもつながります。この実験によって、弁慶濠に生育しているホザキノフサモには、市ヶ谷濠のアオコの発生を抑制する効果があることが確認できました。
水草を活用した水質改善に向けて
弁慶濠に生育するホザキノフサモにアオコの抑制効果があることがわかり、外濠全体の水質改善にもさらなる光が見えました。弁慶濠に繁茂したホザキノフサモを、水質の悪い市ヶ谷濠などの他の濠に移植することで水質の改善が期待できるからです。
外濠に発生しているアオコは、悪臭を発生するだけでなく、他の生物の生育環境にも影響し、外濠の生態系バランスが崩れてしまうことも懸念されています。水草を活用した水質改善の取り組みは、生態系バランスを整える効果にも期待がされます。
なお、実験の際にアオコの種やホザキノフサモを採取することは、外濠を管理する千代田区や東京都にも許可を得たうえで行い、結果についても共有しています。
外濠水辺再生協議会では、引き続き水質や水草の効果についての研究調査を行い、常に最新の情報を関係機関に提供し、外濠の水質改善に貢献していきます。